遺言を作っておいたほうがよい人

文責:弁護士 井川卓磨

最終更新日:2024年09月24日

1 基本的にはすべての人が遺言を作っておいた方がよい

⑴ 遺言を作成しておくことのメリット 

 遺言のメリットは、遺言者にとっては、自分の希望するとおりに財産の承継ができるという点にあります。

 相続人にとっても、遺言がなければ、相続人間で遺産分割協議をする必要があるところ、遺言があれば、これをしなくても財産を受け取ることができるというメリットがあります。

 遺産分割協議は相続人全員で行わなければいけませんし、協議がまとまらなかった場合は調停・審判に発展し、解決までに時間を要するおそれがあり、相続人の方にとっては少なくない労力がかかるといえます。
 遺産分割の流れについては、こちらをご覧ください。 

 

 ⑵ 基本的にはどんな人も遺言を作成しておいた方がよい

 「自分には子どもが一人しかいないから、遺言を作成しておかなくてもいいだろう」と考える方もいらっしゃるかと思います。

 しかし、このような場合でも、本人よりも先に子どもが亡くなってしまう可能性はありますので、「仮に、その子どもが自分よりも先に、または、同時に亡くなった場合には、誰に、どのように財産を承継させたいか」ということを遺言で作っておく方がよいでしょう。

 このように考えられるため、基本的にはすべての人が遺言を作っておいた方がよいといえます

 以下では、特に遺言を作っておいた方がよいという人を具体的に紹介します。

2 前の配偶者との間に子どもがおり、再婚をした方

 前の配偶者との間に子どもがおり、再婚をしたという方は、遺言を作っておいた方がよいでしょう。

 遺言を作らなかった場合、再婚相手は、前の配偶者との間の子どもと遺産分割協議をする必要があります。

 子どもたちが再婚相手と一緒に暮らしていればともかく、そうでない場合は、交流がなかったり、連絡先も分からなかったりということも多いかと思います。

そのような場合には、円滑に遺産分割協議をすることができません。

 さらに、前婚で離婚に至った事情から、感情的なしこりがある場合も少なくないでしょうから、それが円滑な遺産分割を妨げる要因になりかねません。

 再婚相手との間に子どもがいれば、再婚相手だけでなくその子どもも遺産分割協議に参加する必要がありますので、子どもたちの相続手続きを円滑にしてあげるためには、遺言を作っておいてあげた方よいといえます。

 なお、前の配偶者との間の子どもに財産を承継させたくないと考えた場合にも、そのような内容の遺言書にすることが望ましいかどうかは、検討の余地があります。

 相続人の中に、相続において最低限の権利として保証されている遺留分に満たない財産しか受け取ることができない者がいる場合であっても、そのような遺言は有効になります。

 しかし、紛争が生じることを避けるためは、その子どもにも、法定相続分の半分である遺留分を渡しておくという選択もありうるでしょう。

3 相続人に連絡先が分からない方がいるとき

 相続人の中に連絡先が分からない方がいるときは、遺言を作っておいた方がよいでしょう。

 音信不通になっている相続人がいる場合、その方との遺産分割協議をすることが難しくなるため、遺言を作っておいた方がよいです。

 また、連絡先が分かっていたとしても、海外に在住している相続人がいる場合等は、手続きの手間を少なくするために、遺言を作っておいた方がよいといえます。

4 法定の相続分とは異なる内容の相続にしたい方

 法定の相続分と異なる内容の相続にしたい方は、遺言を作っておく必要があります

 たとえば、自分に良くしてくれた相続人に多めに財産を渡したいと考えている場合や、あまり財産を渡したくないと考えている相続人がいる場合、遺言書を作成して、このような意思を明確にしておく必要があり、遺言書がなければ、このような希望は法的に実現できません。

 たしかに、相続人が財産維持・増加に寄与した場合に認められる寄与分や、相続人が生前に財産を受け取っていた場合に認められる特別受益という制度がありますが、これらが認められる基準は厳格で、さらにその事実を裏付ける証拠も必要になりますので、簡単に認められるものではありません。

 そのため、法定の相続分と異なる内容の相続にしたい方は、遺言を作っておく必要があるといえるのです。

 たとえば、「自宅で同居している相続人に、自宅を相続させたい」など、特定の財産を特定の相続人に承継させたいと考えている場合も、同様に遺言を作っておく必要があります

 このような場合にも、遺言を作っておかなければ、その相続人がその財産を遺産分割協議で取得することが確定しないことになるからです。

 なお、法定相続分と異なる内容の相続とするときや、特定の財産を特定の相続人に承継させたいときは、上で述べたように、各相続人の遺留分を考慮しながら、内容を考えるべきだといえるでしょう。

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