二次相続まで考慮した相続税対策

文責:税理士 井川卓磨

最終更新日:2024年06月13日

1 相続税はトータルで計算する必要がある

 「相続税は、二次相続まで考慮して対策をする必要がある」と言われます。

 この意味は、一次相続(夫婦のうち先に発生した相続)だけで相続税を考えるのではなく、二次相続(夫婦のうち後に発生した相続)における相続税についても考慮したうえで、対策をしなければならないということです。

 配偶者には、法定相続分まで、または、1億6000万円までの課税対象の財産額の税額軽減が認められています。

 たしかに、一次相続において、この1億6000万円の枠を利用して配偶者に財産を移してしまえば、多くの場合において相続税がかからないということになるでしょう。

 しかし、二次相続においては、配偶者が一次相続で取得した財産が課税対象になるわけですから、ここで多くの税金がかかってしまいます。

 しかも、二次相続においては、相続で得た財産のほかに、配偶者がもともと持っていた財産も加わりますし、基礎控除額についても被相続人の分が減ってしまっていますから、その分の課税対象も増えてしまいます。

 そのため、相続税対策をする際には、安易に配偶者に相続させるというのではなく、二次相続まで考慮して対策をする必要があるといえるのです。

2 二次相続まで考慮した相続税対策をする手順

 二次相続を考慮して相続税対策をするには、夫婦それぞれの財産内容の確認が必要です。

 現時点で相続が開始した場合には、それぞれの相続財産額は基礎控除額からいくら超過しているのか、その場合にいくらの相続税がかかるのかを、それぞれシミュレーションします。

 そのうえで、それぞれの方の財産のうち、いくらぐらいを他方の配偶者に渡せば、それぞれいくらの相続税になるのかをシミュレーションしていきます

 たとえば、一次相続において、財産の全部を配偶者に相続させれば、一次相続では相続税がかからないものの、二次相続においては、300万円の相続税がかかる見込みになったとします。

 ここで、一次相続において、財産の半分を配偶者に相続させることにすれば、一次相続では100万円の相続税がかかるものの、二次相続では50万円しか相続税がかからず、全体の相続税額を抑えることができます。

 相続税の合計額がもっとも低くなるような額を目安に、他方の配偶者に相続させる財産を決めていけば、全体の相続税額を抑えることができるというわけです。

3 不確定な要素は残る

 このようなシミュレーションは、不確定な要素があるため、あくまでひとつの目安であることに注意が必要です。

 不確定な要素として、たとえば、一次相続と二次相続では相続人の数が変わっている可能性があります。

 一次相続が開始した後、二次相続が開始するまでの間に、子どもが亡くなってしまうこともあるでしょう。

 その場合に、代襲相続人の孫が相続人になって、法定相続人が増えることもあれば、逆に、孫がおらず、法定相続人が減るということもあるでしょう。

 そのほかの不確定な要素として、配偶者の財産内容の変化があります。

 配偶者が高齢で、相続財産にも収益を生むものがなければ、財産額は減る可能性がありますし、逆に、収益を生む相続財産がある場合には、財産額が増える可能性もあります。

 さらに、配偶者が、一次相続以後に、財産額を圧縮するような相続税対策をすることができる可能性もあります。

 これらの要素は発現するかどうかや、どのような影響を与えるのかが不確定な部分があるものの、配偶者の年齢や状態、相続財産の内容によって、ある程度の想定をすることは可能です。

 なるべくこれらの要素も織り込んだうえで、対策内容を検討する必要があります

4 他に考慮しなければならない要素も

 二次相続も踏まえて相続税対策する際には、上記のほかにも、それぞれの相続における小規模宅地等の特例の適用の可否、障害者控除の適用の可否など、考慮しておかなければならない要素が多くあります。

 さらに、相続税のことばかりを考慮して、実際の財産の管理や、相続でもめないための対策などがおろそかになってしまうという恐れもあります。

 二次相続も考慮して相続対策をするというのは、かなり高度な方法であるといえますので、これを進めるにあたっては、相続に強い専門家からのアドバイスをうけながら進めるのがよいでしょう。

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